長寿を祈る食べもの「麺」
ご飯と汁ものとおかずという献立が中心の韓国で、主食のご飯と同様に愛されているのが麺類です。韓国では麺料理のことを主に「クッス」と呼びます。クッスという言葉の語源には、ゆでた麺を水につけ、手(ス)ですくい上げることから呼ばれ始めたという説と、小麦粉で作った麺を「クンムル(スープ)」に入れて食べることに由来するという説があります。
韓国でクッスは特別な儀式の折によく登場します。赤ちゃんが生まれて百日目のお祝いや満1歳の誕生日に餅をご近所に配る風習がありますが、餅をいただいた家では、餅が入っていた器に糸束やクッスを入れて返すのが慣わしとなっています。糸やクッスが長いことから、幼い子どもの寿命が長く、長寿となるように祈るのです。同様にお年を召された方の誕生日も、長寿を願ってクッスでもてなします。韓国では“クッスを食べる”という言葉はすなわち“結婚”を意味したりもします。“クッスいつ食べさせてくれるの?”という言葉は、つまり“いつ結婚するの?”ということなのです。結婚式の時もお客様をクッスでもてなしますが、そこには二人の絆がクッスのように長く、いつまでも幸せに暮らせるようにとの願いがこめられています。
ズズッと...クッスは音を立てて食べるもの
韓国でも一般的には、食事のとき音を立てるのはお行儀が悪いとみなされます。でもクッスを食べるときだけは例外。麺をすする「ズズッ」という音はクッスに限って失礼とはならず、むしろ音を立てる方がおいしいと思われているのです。ソースをからませフォークでくるくると巻いて、ひと口で食べるスパゲッティーとは違い、スープを使った麺料理のクッスでは当然といえるかもしれません。クッスの歴史を見ますと、高麗時代(918〜1392)に中国の宗国の使臣である徐兢(ソグン)が書いた「高麗図経」という文献に、始めてクッスに関する記録が現れます。文献でわかるように中国から伝わった麺ですが、中国と韓国では製法がかなり違います。中国では生地を2つに分け、それをまた2つに分けて4本にし...という方法で麺を打ちます。しかし韓国では主に、小さな穴を開けたひょうたんに生地を入れて手打ち棒で押し出し、穴から押し出された麺を熱湯でゆで、その後もう一度固めるという「搾麺(チャクミョン)法」を使って麺を作ります。世界でも珍しいこの搾麺文化のおかげで、小麦粉のようにグルテンが多くないそば粉や緑豆でも、クッスを作って食べることができたのではないかと思われます。「搾麺法」で作った代表的なクッスといえば、もちろん「冷麺(ネンミョン)」。「雑菜(チャプチェ)」に使われる春雨も、搾麺法で作られます。漢江(ハンガン)を境に北方では「冷麺」が、南方では「カルクッス」が広まりました。カルクッスは搾麺法ではなく、こねた生地を薄くのばし、細切りにして作ります。
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